退職金制度の中の2つの顔とは

退職制度の中の2つの顔とは

 退職金制度改革に取り組む際に、この退職金制度をどう捉えるかが重要
なポイントになります。
 まず、退職金制度は、「退職金規定」と「退職金積立制度」の2つ顔を
持っています。退職金規定は、企業における退職金制度の内容を規定して
いるものであり、退職金積立制度とは、例えば適格退職年金や厚生年金基
金、中小企業退職金共済制度、預貯金等(預貯金や保険等は制度としては
存在していませんが、積立制度の一種)のことです。退職金制度の中でそ
れぞれの役割をもって存在しているのです。この役割と両者の関係を確実
に把握し、制度の全体像を捉えることが非常に重要なのです。

□ 退職金規定

 退職金規定(「適格退職年金」では「退職年金規定」という)とは、
会社と従業員との間における労働条件を定めた「就業規則」の一部です。
つまりは、退職金規定は、会社と従業員との間で交わされた労働契約の一部
といえます。そしてそこには退職金の支払方法や計算方法などの重要事項が
規定されるわけです。

 ご存知の通り労働基準法89条3号の2において、常時10人以上の労働者
(パート、アルバイトも含む)を使用する使用者は「退職手当の定めをする場
合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方
法、並びに退職手当の支払の時期に関する事項」について就業規則を作成し労
働基準監督署長に届けなければならないと規定されています。

 この規定を定める事によって会社は従業員に対して将来の退職時に、この規
定の内容に沿って退職金を支払うことを約束し、その義務を負うことになるの
です。別の言い方をすれば、退職金規定の存在が将来の「退職給付債務」を発
生させているのです。

 注意しなければならないのは、たとえ規定がなくても退職金の支払が一定の
支給基準によって慣例化していれば支払義務が生じるということも留意しなけ
ればなりません。

□ 退職金積立制度

 主な退職金積立制度(資金準備手段)には次のようなものがあります。

 税制適格退職年金制度        厚生年金基金

 中小企業退職金共済         特定退職金共済

 確定給付企業年金法による規約型、基金型、混合型

 確定拠出型年金法による企業型、個人型(日本版401k)

企業内退職金制度(保険商品、預貯金等)

 退職金積立制度がなぜ必要なのでしょう?

 簡単言うと退職給付債務の平準化です。退職金規定によって従業員に退
職金を支払うわけですが、退職金の性格上、基本的に永続勤務者を対象と
しているため金額も高額なものになります。常時、会社がその原資を準備
しておくことは難しいわけです。同時に複数の、それも勤続年数の長い従
業員ばかりが退職したとしたら、退職金を現実問題支払うことができるで
しょうか。
業績も常に安定しているわけではありません。努力しても赤字だったりす
ればどうなるでしょう。いくら規定において従業員に退職金の支払を約束
していても、その原資がないということでは、どうしようにも手を打つこ
とができません。

 そこで、どういう状況下にあっても退職金の支払を確実なものにするに
は、局所的に負担が集中しないように、普段から平準的に退職金の原資を
積立、しかも税制上の優遇措置も受けられるような制度や手段が必要とな
ります。これこそが退職金積立制度なのです。適格退職年金や中退共など
の制度は、退職金規定によって生じる企業の退職給付債務を、将来の退職
時に清算するために存在する準備手段なのです。

 したがって、どの退職金積立制度を採用するかは、退職金規定に定めら
れた内容により決まってくるわけです。退職金規定の内容も決まってない
のに、どの積立制度を選択すれば良いかという検討は本末転倒であること
がお分かりなると思います。

 現在の適格退職年金等の積立不足の原因が、現在の低金利・運用難であ
ることは事実ですが、この退職金規定と退職金積立制度の関係をしっかり
捉え直すと積立不足が生じる根拠が退職金規定にあることがお分かりにな
るでしょう。

 退職金規定によって生じた退職給付債務に対して、退職金積立額が足り
ない状態が積立不足ということです。

 したがって、適格退職年金の積立不足から逃れる為に解約しても、退職
金規定がそのまま存在すれば問題の解決にはならないのです。退職金規定
をそのままにして適格退職年金の移行先の選択に右往左往してもなんにも
ならないことがお分かりになるでしょう。